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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)971号 判決 1969年12月04日

当事者 上告人 網本清一

被上告人 豊商事株式会社

右代表者代表取締役 多々良松郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由「民事訴訟法第一三七条違反について」と題する部分について。

記録によれば、被上告人の提出した所論甲第一号証の一ないし三については、第一審において適法な証拠調が行なわれて、上告人もその成立について認否をし、かつ、原審において第一審の口頭弁論の結果が陳述されたことにより、右証拠調の結果は原審における訴訟資料となったことが明らかである。そして、挙証者がみずから所持する文書に関する書証の申出は、証すべき事実を表示して文書を提出してすれば足り、同時にその写を提出することはその有効要件ではないから、所論のように書証の申出に際し写が提出されなかったからといって、原判決に所論の違法はない。論旨は採用できない。

同「信義誠実の原則違反について」と題する部分について。

原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係に照らして是認するに足り、その判断の過程に所論の違法はない。論旨は原審において主張しない事実または原審の認定にそわない事実を前提にして原判決を非難するものにすぎず、採用しえない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠 大隅健一郎)

上告人の上告理由

一、民事訴訟法第一三七条違反について

原判決の認定は、被上告人(一審原告)の提出した甲第一号証の一から三までの証拠を認定の資料とされたのであるけれども、此の攻撃方法は、相手方に対する書証の謄本を差出さずして、単に、口頭弁論の席上、原告より裁判官に示された侭で、証人尋問が行はれ且つ証人調書が作成せられたものであって、防禦するべき被告に対して送達されたのは、口頭弁論終結(結審)後被告に対する送達受領が行はれた。

口頭弁論における準備手続、攻撃防禦の方法は、弁論主義の下、公平且つ平等に規定せられたものでありながら、本訴の攻撃に対する防禦方法の提出は全く公正の機会を欠く原判決の認定であって審理不尽のものである。

前述の法令違背の原因は、単なる手続上の過誤を指すものではなく、法令の時間的、場所的範囲を誤解し、一方的に不当に法令を適用しない点を指摘する次第である。具体的に申上げると、前述の原告の証拠提出に対する被告の送達を受領したるは、結審後のものであることである。

換言すると、送達報告書に記載せられた書類の送達受領年月日により明白である。

一、信義誠実の原則違反について

上告人と被上告人間の相互契約には「取引準則」なるものが存するのであるが、本訴には、右「取引準則」は無視不当の取扱いを受けたものである。

「取引準則」相互契約によると、

『委託者の追証拠金は左の時限までに預託せねばならない』とし、更に

『追証拠金、委託証拠金は預託すべき事由の生じた日の翌日午前九時まで』

と定められて委託者の仲買人に対する預託支払の方法は規定されたものであり、更には、相互契約によって次のような事項を取り決められて居るのである。

『委託者が前記取決めによる規定の委託証拠金、相互保証金等の預託を怠りて、仲買人が委託者に請求し前記時限までに計算請求金の差入支払を行はないときは委託建玉の全部又は一部を処分することができる』

以上のような相互間の約定を取り決めながらも、被上告人会社は前記整理を怠りて不当に差損金を生ぜしめたのである。

具体的には、上告人及び被上告人間の委託相互契約は、「逆註」の取引方法によるべきものなのであって、これがために、上告人は被上告人会社に対し「逆註」の指定の指示を為したのであるが、にも拘はらず、被上告人会社は上告人の委託行為を放置したものであり、此の点、被上告人(仲買人)の専門的職責を無視した無責任を指摘するのである。

つまり、「逆註」の取引方法の指定は、独り委託者のみの利益を護るばかりでなく、他方、仲買人の利益をも護るべき取引方法として定められたものであるからである。

にも拘はらず、被上告人(仲買人)に於ては、受託義務を無視し、一商人の取引上の差損金を、上告人のみの負債(支払義務)と定めたのである。

原判決の認定は、前述のような契約の自由の原則と相互契約の信義則を無視して被上告人の挙証提出すべき「委託契約準則」を不問に附し、法の下に平等を欠く審理不尽の違法性を有するので、本件上告に及ぶ次第である。

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